研究開発の生産性向上は、開発能力と並んでマネジメント力が重要
研究開発の生産性向上は、開発能力と並んでマネジメント力が重要
研究開発の生産性向上は、開発能力と並んでマネジメント力
企業の競争力は、提供する商品やサービスのレベルとユニークさ重要です。そのハイレベルでユニークな商品やサービスは、研究開発から生まれます。ものすごい資金と人材を投入している研究開発部門を持つ会社もあれば、社長のアイデアと現場の努力で研究開発をしている企業など、研究開発には様々な形があります。多くの資金と人材を投入している研究開発について、経営者、研究開発部門の管理者は、その生産性(=結果としての成果)が気になりませんか。どうすれば、研究開発の生産性が上がるか考えてみます。
企業の研究開発の生産性は、投入した資源に対する新商品の収益力で評価することができます。タッチパネルを採用したiPhoneの開発を例にすると、タッチパネル自体は、アップルの発明品ではありませんが、それをスティーブ・ジョブズがスマートフォンとして利用したことが大発明です。その後、iPhoneが稼いだ金額を思えば、生産性の高い研究開発が行われたことになります。
一方で質の生産性は、評価が困難です。それでも、論文数、論文の引用回数、特許数が、評価項目として上げられます。日本の研究開発は、この3点で見る限り、世界での地位は低下傾向にあり中国が大躍進をしています。
研究開発には、2つのタイプがある
研究開発は、大きく2つのタイプに分けることができます。(あくまで、主観ということでご了解ください)
1.商品開発型
新車開発やソフトウエア開発が代表的。必ず結果を出す必要がある。問題は、時間と金であり、その妥協点を見つけていくことの連続。
2.基礎研究型
新薬の開発、新材料の 開発が代表的。大学など公的研究機関で行われている学術的研究開発の大部分。正解があるかないか分らない研究開発。
商品開発型の生産性を上げるには、多面的視点のマネジメントが重要
商品開発型の研究開発の生産性は、商品の収益力をアウトプット量として評価できます。商品の収益力は、機能、価格、嗜好と上市タイミング等で決まります。上市後は、商品の売上や収益で直接評価できます。簡単に言えば、売れるものをより安く、短期間に開発できたかが、生産性です。
研究開発のリーダーは、常に開発しようとしている商品の魅力と開発の進捗を把握することが大切です。伝記によれば、アップルのスティーブ・ジョブズは、自ら毎週新商品の開発状況をヒヤリングし、毎回多くの意見を加えていたと言われいます。
日本の研究開発をしている多くの組織のリーダーや管理職は、マネジメント力ではなく、その人の専門知識や研究開発実績で任命されることが多いようです。部下達も、上司をマネジメント力ではなく「よく知っている」ことで評価しています。ネットで若い人の書き込みを見ていると「相談したら、丁寧に教えてくれた人」や「一緒に考えてくれた人」がいい上司で、「いつも急がされる」「金を出さずに、口を出す人」が悪い上司ということになっているようです。
ジョブスの例にあるように研究開発の進捗は、頻繁に多面的視点からマネジメントされるべきです。常に開発している商品に競争力があるかをみていくことです。
商品型の開発は、常に金と時間の妥協の産物です。柳田邦夫著「零式戦闘機」(文春文庫)には、技術者達が、あらゆる点で妥協しながら、最高レベルの戦闘機を完成させていく様子が出てきます。
基礎研究型の生産性を上げるキーワードは、「偶然」と「模倣」
基礎研究型の研究開発では、創造的な仕事が期待されます。創造的仕事とは、個人の才能がすべてではないかとの疑問がわきます。研究開発のブレイクスルーに関し、高松秀樹著「研究開発物語 創造は天才だけのものか―模倣は創造への第一歩」(化学同人)という本が参考になります。1992年に出されたものですが、今も新鮮です。この本では、化学・医薬品に関する大きな発見・発明についてその過程を調査し、その40%は「模倣」であり、同じく40%は「偶然」であったと結論づけています。つまり、発明・発見の実に80%は、「偶然」と「模倣」なのです。後世、人は「偶然」をオリジナリティ、「模倣」を理論と呼び、あたかもシステマティックに研究開発が行われたかのように伝えらます。しかし、現実は、そんなにスマートなものではありません。ノーベル賞受賞者の会見で
「ダメと思って試したことが、幸運にも好結果が出て...」
といったコメントがよく出ます。
研究開発のマネジメントでは、偶然と模倣を意識することです。偶然については、いかに偶然の現れる確率を上げるかが大切です。試行回数を増やすことです。模倣は、文献等を調べること。先人と同じことをやってみることです。実験の全てを模倣するケースや、やり方のパターンを模倣することもあります。
需要な点は、その研究開発が、「偶然」を求めているのか、「模倣」からトライしているか、意識しマネジメントすることです。「偶然」を求めているのに試行回数が少ない、「模倣」をしているのに調査不足では、成果を期待できません。
研究開発物語 創造は天才だけのものか―模倣は創造への第一歩
まとめ:研究開発の生産性を上げるには、マネジメントが重要
商品開発型であれ、基礎研究型であれ、研究開発で成果を上げる(生産性を上げる)にはマネジメントが重要です。通常の業務は、ルーチン化し易いものです。一方、研究開発は、何をターゲットにするか、いつまでに、どのくらいのコストをかけて、どんな方法でするか等々マネジメントすることが沢山あります。マネジメントが有効になされなければ、研究開発部門の人間を十分活用できません。マネジメントがなければ、研究開発を兼務でしている人がいれば、通常業務を優先して研究開発を後回しにします。研究開発は、他の業務よりマネジメント力が必要であることを経営する方々が認識して、研究開発の生産性が上がることを期待します。