「勉強になった!」という言葉に含まれる4つの学習深さ
「勉強になった!」という言葉に含まれる4つの学習深さ
「勉強になった!」という言葉に含まれる4つの学習深さ
講演会や研修会のあとの感想で、
「勉強になりました」
と言うことがよくあります。また、日常的な会話においても、誰かの説明や体験談を聞いた際に「勉強になった」と返す場面は珍しくありません。
私の部下が、社外の研修から帰ってきたとき
「研修は、どうだった?」
と質問したことがあります。部下は、
「勉強になりました」
と答えるので、
「何が勉強になったのか?」
と尋ねると、タジタジです。挙句の果てには、研修案内を見ながら話す始末。
「何を学んだか言えないのは、『勉強になった』とは言えんぞ!」
と半分怒ったことがあります。
この場合の「勉強になった」は、慣用句でしかありません。上司や目上の人に対して「勉強になりました」と言う場合、その言葉は感想ではなく、挨拶や敬語的な意味合いを強く帯びます。
この表現は、相手の話の内容に関わらず、
「あなたの話は価値がありました。」
「私はそれを受け取らせてもらいました。」
という上下関係を前提とした儀礼的な意味を帯びています。この場面での「勉強になりました」は、実際の学習の深さとは必ずしも一致しません。
一方、株取引の失敗や仕事上のミスなど、自らの経験に基づく反省の場面においても「いい勉強になった」と言うことがあります。この場合、失敗を自ら慰める言葉のこともあれば、しっかりとした教訓を得て、次は失敗しない行動を取ることを決心した「いい勉強になった」もあります。
こんな風に「勉強になった」という言葉は、様々な意味で使われています。社交辞令ともいえる「勉強になった」ということから、深い理解や行動変容を伴った学習をしたという「勉強になった」まで、あるのです。
「勉強になった」という表現には、以下の4つの学習の深さが含まれています。
1)外交辞令
2)理解の確認
3)再構築
4)実践可能性
「勉強になった」という言葉は、単なる挨拶や自分への慰めである段階から、「勉強を行動に変える」ことができるレベルまであるということです。
この記事では、
A)他者の話を聞いたときの「勉強になった」
B)自分の失敗体験に対する「勉強になった」
と言うときの学習の深さを考えます。
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「勉強になった」という表現の社会的・心理的背景
1)社交辞令としての「勉強になった」:
日本語には、相手の話を肯定し、場の雰囲気を和らげるための曖昧な表現が多くあります。「勉強になった」もその一つと言えます。相手の話の内容に関わらず、「あなたの話は価値がありました」というメッセージを伝えるための「潤滑油」と捉えられます。
2)理解の確認としての「勉強になった」:
話の筋を理解したことを示すための合図として使われます。
「勉強になりました」という表現には、
・話の流れが理解できた
・相手の意図を把握した
という意味を含んでいます。学習の深さという意味では、話の筋が分かったという限定的なものです。
3)再構築としての「勉強になった」:
より深いレベルでは、相手の話を自分の経験や知識と結びつけ、意味づけを行う段階です。
この段階では、単なる理解を超えて、
・自分の価値観
・過去の経験
・行動原理
と照らし合わせて、内容を再構築する作業が行われます。聞いた話を「自分の言葉」で話せる段階です。講演会などで、一般的な話や講演のテーマに沿った事例が紹介されたことを自分や自分を取り巻く環境に当てはめて、講演の内容と同じなのか、どこか違うところがあるといったことが想像できるレベルの理解です。
4)行動変容を伴う「勉強になった」
学んだ内容を「自分の言葉」にし、更に具体的な行動を起せる状態になるのが、最も深い学習段階です。学習よって、行動の変化を生み出すことができる状態です。
例えば、講演内容を自分や自分を取り巻く会社や社会に当てはめ、「どんな行動をすべきか」が描けるレベルの学習です。
人の話を聞いたときの「勉強になった」と失敗体験を反省しての「勉強になった」
人の話を聞いた後に使う「勉強になった」と失敗体験を反省で使う「勉強になった」を、前に述べた4つの分類で考えると共通点が浮かび上がってきます。
他者の話を聞いたときの「勉強になった」
① 外交辞令:
上司や講師に対する「勉強になりました」は、内容に関係なく使われることが多く、学習とは無関係です。
② 理解の確認(ストーリー理解):
話の筋を理解した段階であり、学習としては表層的です。「あらすじ」が分かったというレベルです。
③ 再構築:
話を自分の経験と結びつけ、意味づけが行われる段階。
④ 実践可能性:
学んだ内容を行動に移せる段階であり、最も深い学習です。
失敗体験における「いい勉強になった」
① 自己慰め:
痛みを和らげるための言葉であり、「学び」はほぼありません。精神的ダメージを克服するための言葉になっており、失敗を教訓とするためのスタート段階です。
② 事実理解:
何が起きたかを理解した段階で、客観的に起きた事実やその時の自分の気持ちが理解できているというレベルです。
③ 原因分析:
失敗の構造を理解し、自分の行動原理と結びつける段階です。起きた事実を抽象化し、何か間違っていたかといった根本的な原因を見つけたレベルです。
④ 再発防止策の実践:
行動変容が伴う段階であり、最も深い学習です。原因が分かり、「どうすべきか」が明確になった段階。
これらを、表にまとめると以下のようになります。
| 段階 | 人の話を聞いたとき | 失敗体験のとき | 学習の深さ |
| ① 外交辞令 | 相手への挨拶・礼儀としての「勉強になりました」 | 自己慰めとしての「いい勉強になった」 | 浅い(実質的な学習なし) |
| ② 理解の確認 | 話の内容・経緯を理解した段階 | 失敗の事実を理解した段階 | やや浅い(表層理解) |
| ③ 再構築 | 自分の経験と結びつけて意味づけ | 原因分析と自己理解 | 中程度(内省が生まれる) |
| ④ 実践可能性 | 行動に移せる形で理解 | 再発防止策を実行 | 深い(行動変容が伴う) |
「勉強になった」が生む学習の錯覚
心理学的に言うと「勉強になった」と口にすることで、脳が学習を完了したと錯覚する現象があります。
特に①〜②の段階でこの表現を使うと、実際には理解していない、行動も変わっていない
にもかかわらず、学んだ気になってしまいます。
実際の多くの研修や体験が、①や②の段階の「勉強になった」で終わってしまっています。よく、学びは、他人に教えることができて、本当に学んだことになると言われますが、③や④のレベルで使う「勉強になった」です。
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まとめ
「勉強になった」には、4つの学習深さがあります。
1)外交辞令
2)理解の確認
3)再構築
4)実践可能性
「勉強になった」という言葉を単なる挨拶や自分への慰めで終わらせることなく、「勉強を行動に変える」ことができるレベルこそ本当の学びであると心得ることが大切です。
参考記事:怪しい「ラーニングピラミッド」の「学習定着率」と、学習方法の多様性
