「子どもの問題」の根源にある「親の問題」「社会の問題」「行政の問題」
「子どもの問題」の根源にある「親の問題」「社会の問題」「行政の問題」
「子どもの問題」の根源にある「親の問題」「社会の問題」「行政の問題」
日本の子どもに関する問題には、
貧困、教育格差、虐待、いじめ、不登校、メンタルヘルス、生活習慣の乱れ、育児負担等々、実に沢山あります。また、問題の形は年々変化し、SNS依存、SNSを通してのいじめ、犯罪などが出てきています。オーストライリアでは、ついに2025年12月10日、16歳未満のSNS利用を禁止する世界初の法律が施行されました。中毒性のある仕組みやネットいじめ、未成年を狙う犯罪者などから子どもを守る狙いがあると伝えられています。(CNN:「子どものSNS禁止法・・・」)
「子どもの問題」の背景には、「親の問題」や「社会や行政の問題」があります。例えば、子どもが貧困なのは、親が貧困だからです。幼児の虐待死は0歳児が最も多く、予期しない妊娠や育児教育といったことが背景にあります。国や自治体は、様々な施策を行っていますが、申請主義で何事にも書類による手続きが必要です。この壁は意外に高く、必要な子どもに十分な支援が行きわたっているとはいえない状態です。
子どもの問題に対して様々な支援の制度や児童手当の支給などが、行われています。また、2020年には児童虐待防止法が改正され、2022年には民法「懲戒権」も削除されました。参考:厚生労働省「民法等改正に伴う児童福祉法等の改正について」
これらの対策は、「子どもの問題」を病気で言えば、「症状」に対する療法です。下手をすると「痛み止め」に過ぎないのかも知れません。問題の本質は、子どもの問題(症状)の原因である「病気」を治すことであり、更に言えば病気を引き起こす生活習慣や公衆衛生を改善しなくてはなりません。
「子どもの問題」に関して、「症状」に対する対処療法、原因である「病気そのもの」を直す薬や手術、病気を引き起こす生活習慣や公衆衛生の改善といったことを同時に進めなければ、「子どもの問題」は形を変えながら続いていくことになります。
会社などの組織の問題を解決する経営コンサルタントは、ロジックツリーなどを活用して、問題点の整理を行います。そして、問題点の背景にある原因をみつけ、深掘りして真の原因を突き止め改善します。この手法を「子どもの問題」に適用して考えると以下のように整理することができます。
1)第1層 子どもに現れる問題:貧困、虐待など
2)第2層 親が抱える問題:経済的困難、家庭内暴力(DV)など
3)第3層 社会構造や行政の施策問題:低賃金、地域コミュニティの崩壊、子ども支援制度など
「子どもの問題」を解決しようとするとき、この3層を意識して「関わる(介入)」ことが重要です。どこかの層に偏って関わると以下の様なことが予想されます。
1)「子どもの問題」を直接解決しようとしても、それは対症療法となる。
2)「親の問題」に介入すると改善効果は大きいが、個人責任論に陥りやすくなる。
3)「社会構造」に介入すると根本解決に近づくが、政治的・制度的ハードルが高く時間がかかる。
つまり、対処療法として子どもの問題を直接解決すると同時に、親の問題や社会構造の問題に取り組んでいかなければ、「もぐら叩き」となることを意味しています。
この記事では、三層に整理した問題の中で、「親の問題」と「親の問題を生み出す社会構造」について考えます。なお、内容はこども家庭庁参与の辻由紀子氏の2025年12月6日明石における講演「社会を明るく! 大人がかわれば 子どももかわる」を講演者の同意の上、参考にしています。
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「子どもの問題」における3層構造
「子どもの問題」にある3層構造を少し詳しく見てみます。
第1層:子どもに現れる問題:
貧困、教育格差、不登校、メンタルヘルス、生活習慣の乱れ、SNS依存、虐待、いじめといった問題です。これは、病気の「症状」に当たります。時代や地域により、次々と形を変えて現れてきます。例えば、SNSで情報を得て、ネットで買った薬でオーバードーズを起した中学生の例など、現代を象徴しています。
第2層:親が抱える問題:
親の経済的困難さ、低賃金や不安定雇用、長時間労働、孤立(地域・家族・職場)、メンタル不調、育児スキルや知識の不足、家庭内暴力(DV)等が子どもに現れる問題の背景にあります。例えば、児童虐待では、心理的虐待が約6割、その内の約6割が子どもも面前で家族が暴力を振るう(面前DV)ことが、背景にあります。(辻由紀子氏資料より)また、親の経済的不安が子ども心の不安となります。シングルマザーの多くは、年収が200万円に満たないといった状況です。
第3層:親の問題を生み出す社会構造
親の問題の本質は、低賃金構造・非正規雇用の拡大、住宅・地域コミュニティの崩壊、子育てを個人化する文化、硬直した教育制度、家族政策の弱さ、硬直したタテ割り行政などがあります。例えば、シングルマザーの年収が低いのは、非正規雇用の仕事であることに原因があります。また、正規社員としてフルタイムで働けないのは、子どもを預かってくれる仕組みが不足している、子どもの面倒をみる祖父母と一緒に生活していないといった背景があります。もっと言えば、日本経済そのものが、長期に渡って低迷していることに根本的問題があるといった具合です。
つまり、「子どもの問題」は「親の問題」であり、「親の問題」は、親個人の問題ではなく、社会構造が生みだす「必然的な結果」と捉えることが重要ということです。
学力偏重と「親としての力」の欠如が生む構造的問題
「子どもの問題」を「親の問題」として捉えたとき、「親としての力」が欠如していることが大きな問題です。
日本の教育は長らく「学力=将来の成功」という単線的モデルを前提にしてきました。その結果、学校教育の中で育まれるべき以下の領域が体系的に扱われてこなかったことが、「親の問題」を再生産する構造につながっています。
従来教育が扱ってこなかった領域として以下のようなものがあります。
・社会制度の理解(税、保険、行政サービス、労働法など)
・子育ての基礎知識(発達、コミュニケーション、生活習慣)
・家庭内の対話・合意形成スキル
・世代間コミュニケーション
・コミュニティとの関わり方
・メンタルヘルスや自己調整力
これらは本来、「親としての力」として社会全体で育むべき能力です。しかし、学校教育がこの領域をほぼ扱わないため、親は自分の育ち方や偶然の経験に依存して子育てを行うことになります。従来は、このようなことは、家族や地域の人間関係の中で学んできたことです。ところが、複数世代が同居する世帯がなくなり、近所付き合いも希薄になる中、学ぶ機会が減少しています。この結果、
・親が制度を使いこなせず、支援にアクセスできない
・子どもの生活習慣やメンタル面の問題が放置される
・親自身が孤立し、負担が増大する
・「親の問題」が次世代へと連鎖する
といったことが起きています。教育の欠落が、親の問題を構造的に再生産するという構造になっています。
学校教育に「親としての力」に関する教育を組み入れることができれば、「子どもの問題」の改善につながります。例えば、
・社会制度リテラシー(税、保険、行政サービス)
・子育ての基礎(発達、生活習慣、コミュニケーション)
・メンタルヘルス教育
・家庭内対話・合意形成スキル
・コミュニティ参加の方法
これらによって、
・親の問題の“予防”が可能になる
・子どもの問題が世代間で連鎖しにくくなる
・行政支援へのアクセスが改善する
といったことが期待できます。
根本的には、義務教育を国語、算数といった勉強を教える場から、「子ども時代を過ごす居場所である」といった発想の転換が必要です。勉強は、塾の方が教えるスキルが上です。運動なら、スポーツクラブが優れています。私個人の見解は、塾やスポーツクラブを学校と認め、従来の学校と並行して通うことを認めたらいいと思います。(運動部の部活のように、各科目は塾でもリモート塾でも学校の授業代替として認めるといったこと)
従来の学校は、各科目と同等に社会制度リテラシーや社会生活の必要な教育を行うことが出来やすくなります。ただ、このような教育や学校の概念を変えるのは、国の教育を中央で細部まで管理しようとする文科省にとって、受け入れ難い変更でしょうが。
行政制度が現代にマッチしていないことの弊害
行政の仕組みは高度経済成長期の「標準家族モデル(夫婦+子ども)」を前提に設計されています。しかし現代は、単身世帯、ひとり親、事実婚、ステップファミリー、転居を繰り返す家庭など、多様な家族形態が一般化しています。
現代に合わない行政の特徴には以下のようなものがあります。
・世帯単位での支援(個人単位の困難が見えない)
・住民票ベースの支援(実態と住所が一致しない家庭を取りこぼす)
・紙による申請(情報弱者・多忙な家庭がアクセスできない)
・相談窓口が縦割り(複合的な問題に対応できない、申請者のたらい回し)
この結果、以下のような弊害が生じます
・支援が必要な家庭ほど制度にアクセスできない
・虐待・貧困・不登校などの兆候が行政に届かない
・親が制度を理解できず、孤立が深まる
・行政が「最後の砦」になり、早期介入ができない
つまり、行政の制度設計が「親の問題」を増幅し、子どもの問題を深刻化させる構造になっています。
行政を「個人単位・デジタル前提」に再設計することが望まれます。 具体的には
・個人単位の支援(家族形態に左右されない)
・デジタル申請の標準化
・ワンストップ相談窓口
・行政・学校・医療・NPOのデータ連携(安全な範囲で)
これらによって、
・支援が必要な家庭に早期に届く
・親の負担が減り、子どもへの影響が軽減される
・行政の効率が上がり、現場の疲弊が減る
といった効果が期待できます。
究極は、マイナンバーを利用して、一元的に管理することが最も有効かつ効率的です。支援を必要とする子どもや支援を必要とする親が、マイナンバーを通して把握できる仕組みにすることです。これで、支援のモレなどを防ぐことができます。また、マイナンバーを徹底することで、個人所得が全て明らかになり、支援の公平さと納税の公平さも実現できるのですが、「個人情報」が国や自治体に明らかになることを嫌がる人々にどう説明していくかが、大きな課題となることが予想できます。
子どもとの接点がボランティアに依存している構造的リスク
現在、子どもと社会をつなぐ役割を担っているのは、NPO、少年補導員、地域ボランティアなど、非営利の担い手が中心です。行政や児童相談所、警察といった組織は、あくまでも受け身、つまり通報は相談があったら動く機関です。
ボランティア依存の問題点は、以下のような問題を含んでいます。
・活動が不安定で継続性がない
・地域差が大きく、支援が「運」に左右される
・専門性が十分でない場合がある
・行政との連携が弱く、情報が共有されない
・子どもが支援につながるルートが偶発的
本来、子どもとの接点は社会の基盤インフラであるべきですが、現状は「善意に依存した脆弱な仕組み」になっています。
子どもとの接点を「公的インフラ化」することが、望まれます。 具体的には
・学校内に常設の子ども支援スタッフ(スクールソーシャルワーカー等)
・地域に「子どもセンター」や「第三の居場所」を公的に整備
・NPO・ボランティアを行政が制度的に支える仕組み
・子どもが自分でアクセスできる相談窓口の整備
これらによって、
・子どもの問題を早期に発見できる
・ボランティア任せの不安定さが解消される
・子どもが「孤立しない社会」を実現できる
と言った効果が期待できます。
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まとめ
「子どもの問題」は、「親の問題」であり、「親の問題」は「行政の問題」といった構造をしています。これらは、「別々の問題」ではなく、すべて繋がっているということです。
ポイントは、
1)教育が「親としての力」を育てない
2)行政が現代の家庭に合っていない
3)子どもとの接点が脆弱である
ということです。この結果、
親の問題 → 子どもの問題 → 次世代の親の問題
という負の循環が再生産されています。この循環を断ち切る施策が期待されます。
参考記事:「行動遺伝学」の知見から考える学校教育の限界と教えるべきこと

