「パーパス経営」とは、企業の「志」をストーリーにすること
「パーパス経営」とは、企業の「志」をストーリーにすること
「パーパス経営」とは、企業の「志」をストーリーにすること
最近「パーパス経営」という言葉を聞くようになりました。世界的な企業が、パーパス経営を打ち出し、マスコミに取り上げられます。
よく取り上げられるパーパス経営をしている企業が、「パーパス経営によって成功したのか」、「成功した理由をパーパス経営とした」のかは、正直よくわかりません。(個人的見解ですが。)しかし、「パーパス経営」として企業がアピールすることで、消費者、資本家、従業員などのステークホルダーの支持を受けていることは確かです。
purpose(パーパス)とは「目的・意図・意思」などの意味をもち、「存在意義」や「志」などの意味も含まれています。パーパス経営とは、企業の経営理念として自社の存在意義を明確にしてどのように貢献していくのかという「パーパス」を掲げたものです。
従来から、「ミッション」「ビジョン」などを経営の目的に掲げた考え方がありましたが、これらは未来に実現したい姿であるのに対し、パーパスは今自分たちが何のために存在しているのか示しています。
私は、「パーパス経営」とは、ストーリー(物語)によるコミュニケーションを使った経営だと考えています。パーパス経営では、「パーパス・ステートメント」と言われる
「どのような企業、社会貢献を目指しているのか」
といったことを示します。企業やその従業員は、このパーパス・ステートメントに従い、ストーリーの中で役を演じているというものです。
例えばCO2削減を、パーパス経営では、「国の基準を守らされる」のではなく、「企業として地球環境保全に貢献するためにCO2を削減している」と考えるのです。つまり、自分の会社が、地球環境を守るという「ストーリー」の出演者として振舞っていると考えます。
人は、ストーリーが大好きです。モノを買うときも、人と話をするときも、その中にストーリーがあると引き付けられます。最近、マーケティングでは、
「モノを売らずに『コト』を売れ」
なんて言われています。モノの中に含まれる、ストーリー(コト)が、人々の興味を引くことが知られています。パーパス経営も
「企業のストーリーを売っている」
と言い換えられるのではないでしょうか。このストーリー作りこそ、「パーパス経営」です。
パーパス経営の手順とパーパス・ステートメントの例
パーパス経営手順
パーパス経営には、以下の手順があります。
1)自社パーパスの明確化
企業の歴史、経営者や従業員の意見、社会的な状況を踏まえ、「社会にどのような価値を提供できるのか」からパーパスを考える。
2)パーパス・ステートメントの作成
パーパスをまとめた声明「パーパス・ステートメント」を作成する。ステートメントは、わかりやすく「どのような企業、社会貢献を目指しているのか」が伝わるようにする。
3)パーパス・ステートメントの実行
パーパス・ステートメントを公表し、同時に従業員に徹底し実行する。
パーパス・ステートメントの例
世界には、多くのパーパス経営を謳った企業があります。その中から、いくつかのパーパス・ステートメントを紹介します。(各社HP等より)
味の素:「アミノ酸のはたらきで食習慣や高齢化に伴う食と健康の課題を解決し、人びとのウェルネスを共創します」
ユニリーバ:「サステナビリティを暮らしの“あたりまえ”に」
東京海上ホールディングス:「お客様や地域社会の“いざ”をお守りすること」
ネスレ日本:「食の持つ力で、現在そしてこれからの世代のすべての人々の生活の質を高めていきます」
ソニー:「クリエイティビティとテクノロジーの力で、世界を感動で満たす。」
ナイキ:「スポーツを通じて世界を一つにし、健全な地球環境、活発なコミュニティ、そしてすべての人にとって平等なプレイングフィールドをつくり出す」
いずれの会社も超のつく優良企業ばかりで、収益的には十分強い会社です。なにも「パーパス経営」などと言わなくてもよさそうです。なのに、これらの会社が、パーパス経営を掲げるのは、収益以外のメリットがあるからです。
パーパス経営の本当のメリット
パーパス経営のメリットとして、以下のようなものが挙げられています。(名和高司著「パーパス経営 30年先の視点から現在を捉える」およびネット記事から抜粋)
1)ステークホルダーから支持される
2)従業員のやる気や帰属意識が上がる
3)革新や変化を生み出す
などでしょうか。いずれも真面目な綺麗過ぎる言い方です。本当のメリットは、世間で定着している、
「大企業=悪」「儲け=悪」「製造業=環境破壊」
といった批判に対して「言い訳ができること」であり、「従業員のモチベーション低下を防ぐ」効果だと思っています。
企業が大きくなり収益を上げると、それだけで「悪」とされてしまいます。GAFAのようなビジネス界で賞賛されるイノベーション企業でも、巨大化し収益を上げると批判的な人々が現れます。成功し巨大化した企業に対する批判の理由が、まさか「嫉妬」とは言えませんので、「環境にやさしい」、「持続可能な世界の実現」「平等」といったSDGsにうたっている内容で行われます。世界の人々が共感するようなパーパスは、ステークホルダーを含む世間へのアピール(「言い訳」)になります。
かつて花形だった重厚長大産業は、今や環境破壊の「罪人」となっています。働く従業員は、何か悪いことをしているような気になりがちです。(実際、私は鉄鋼会社で仕事をしていましたが、若い世代ではCO2に関しては、どこか「うしろめたさ」を感じる人がいました。)パーパス・ステートメントにて、明確に会社の存在意義等を表明すれば、従業員は救われます。
パーパス経営とストーリー(物語)
従来、経営において重要視されてきたのは、MVVです。MVVとは「M:Mission」「V:Vision」「V:Value」の呼称であり、MVVを明文化している企業もあります。MVPは、以下のようなものです。
1)M(ミッション):企業が果たすべき使命
2)V(ビジョン):企業が目指す未来像や構想
3)V(バリュー):企業の価値観や行動指針
これらMVVとパーパスの違いは、社会的なつながりを重視するかどうかです。MVVは、社会的な繋がりが薄く、「自社がどうないたいか」の視点が中心となっています。
モノやサービスは、価格、品質、量といった基本的特性で良いモノ、良いサービスは判断できます。つまり、商品だけで評価できるということです。これは、MVVから考える企業の価値です。
ところが、今世界は、環境破壊、温暖化、経済格差、人権等々多くの問題を抱え、企業の提供するモノやサービスもこれに連動して評価するようになっています。例えば、1枚のシャツが、「人権問題のある会社で製造されたかどうか」など、後ろに隠れたストーリーが評価に含まれます。かつては、このようなことは問題になることは、ほとんどありませんでした。「パーパス」から考える企業の価値は、この例のように人権問題にどう取り組んでいるかまで含めたものになっています。
今人々は、経済学でいう「経済的に合理的判断」をせず、「感情的なものを含めて判断」するようになってきています。先に述べた「大企業=悪」のような論調がマスコミには、よく登場します。SDGsの内容を実現しようとすると、それぞれの目標達成に対して矛盾が生じます。企業人も政治家もその業績でなく、「スキャンダル」があったかなかったかなど「人格」で評価されることが多くなっています。私には、世論が「感覚的」になっているように思えます。
世の中は、事実や経済的合理性だけではなく、感情の入ったストーリー(物語)の世界で物事を考え生活している人々が増えています。実写の映画よりアニメの方が、観客動員数が多いのです。企業が、感覚的、感情的な批判を回避し「共感」を得るには、「パーパス」というストーリーを持つことが有効です。ストーリーは、ウソではありません。しかし、アニメと同じく真実を象徴化や理想化したものです。「パーパス」は、社会の「共感」を得ることが重要であり、企業の「志」をストーリーにしたものと考えることができます。
まとめ
「パーパス経営」とは、企業の経営理念として自社の存在意義を明確にしてどのように貢献していくのかという「パーパス」を掲げた経営です。
「パーパス」は、従来のMVV(Mission、Vision、Value)と異なり、社会的なつながりを重視する傾向が強いものです。「パーパス」は、社会の「共感」を得ることが重要であり、企業の「志」をストーリーにしたものと考えることができます。