「会社で、あるある」の「社会的手抜き」の原因と防止・利用方法
「会社で、あるある」の「社会的手抜き」の原因と防止・利用方法
「社会的手抜き」の原因と「手抜き」の防止と利用方法
「チェックリストに機械的にレ点をつける」
「人を集めてブレストしても期待したほどアイデアが出ない」
「国会で居眠りや読書をする議員」
これらは、いわゆる「手抜き」です。「手抜き」には、同じことを繰り返しているうちに動機付けが低下して生まれる「個人的手抜き」(冒頭のチェックリストの例)と、集団になると生まれる「社会的手抜き」とがあります。
社会心理学で「社会的手抜き」と呼ばれる現象は、人が集団になると個人の総計より大きな力は生まれないことと理解されています。よく、
「1+1は2より大きくなる」
「3人よれば、文殊の知恵」
などと集団の力を強調した教訓話がされますが、それらは少人数の場合に限られています。10人、100人と集団が大きくなると、集団としての力は個人の総和より小さくなります。身近な例として、大人数での綱引き、祭りの御神輿担ぎを思い出せば、納得がいくと思います。
この現象は、社会心理学的には、
「社会的手抜きとは、人は集団になると怠け、単独で作業を行うよりも1人あたりの努力の量が低下する」
と説明されており、様々な実験により証明されています。また、集団の人数が多くなるほど1人あたりの努力が低下することを、「リンゲルマン効果」と言います。
「社会的手抜き」の原因として、次のようなことが指摘されています。
1)評価可能性のなさ:個人の集団への貢献が適切に評価できない。
2)努力の不要性:特定の場面において努力する必要性を感じない。
3)手抜きの同調性:他人がサボっているなら自分もサボる。
4)緊張感の低下:集団の中で当事者意識がなくなる。
様々な場面で、上記の原因で「手抜き」を説明できることが分かります。ブレストでアイデアが参加人数ほどでないのは、「努力の不要性」が効いているのでしょう。大抵の人が、「誰かがアイデアを出すだろう」と思いがちです。「議員の居眠り」は、「緊張感の低下」でしょうか。
社会的手抜きを力ずくで防ごうと「ルールの厳格化」、「監視の強化」をしてもあまり効果がないようです。むしろ、これらは、上司や会社への反感を持たせるだけです。
そこで、「手抜き」を防止したり、活用したりするヒントを3つ紹介します。
1)「手抜き」の存在を認めること
2)「社会的手抜き」が発生しにくい人員構成にする
3)「手抜き」を避ける自動化や利用する商品開発をする
一般に手抜きは、「悪いこと」「あってはならないこと」として認識されています。しかし、「手抜き」は起きうること。「手抜き」を活用することもできると考え方を変えることが、「手抜き」との付き合い方において重要です。
人はなぜ集団になると怠けるのか 「社会的手抜き」の心理学 (中公新書)
「手抜き」の存在を認めること
そもそも「手抜き」が発生するのは、大阪大学の釘原直樹人教授の著書によれば、
「人が精神的・身体的エネルギーを節約しようとするから」
です。「手抜き」は、人が生きていく上での本能のようなものです。「手抜き」を防ごうと規則を細かく決め、カメラなどで監視を強化しても、人はやがて抜け道を見つけます。また、監視を強化すれば、上司や会社との間に不信感が生まれ、反発の気持ちがでます。金銭的な報酬や表彰制度は、一部の「頑張り屋さん」を生みますが、多くのお金や表彰とは無関係な「手抜き」集団は変わりません。
避けられない「手抜き」であれば、この存在を認めることです。「上手な手抜き」は、仕事の合理化のヒントを与えてくれます。「手抜き」をしようとする気持ちが、数々の便利な発明品を生み出してきたことを歴史が教えてくれます。発明王エジソンの人生初めての発明品は、彼が鉄道の電信士をしているころ生まれました。エジソンが仕事中に居眠りをするので、上司が
「一定時間毎に信号を送れ」
と命令しました。はじめは、上司の命令通り信号を送っていたのですが、そのうちに「手抜き」を考えました。それが、自動で一定時間毎に信号を送る装置の発明であったと伝記にはあります。
「個人的手抜き」「社会的手抜き」が避けられないのであれば、「手抜き」の起きる条件を少しでも減らすこと。エジソンの発明のように、「手抜き」手法の活かし方を考えることです。
「手抜き」を避ける自動化や利用する商品開発
「手抜き」は、集団の中で生まれます。構成人数が減れば、「手抜き」ができにくくなります。仕事を小分けにして、各担当を少人数化することが効果的です。
私の所属する「経営士会」の例ですが、ブレストをする際、メンバーを2~3人のグループに分け、後でまとめる方式を取っています。「経営士」という話したがり屋が多い集団でも、大人数になると意見が出にくい傾向になるからです。
会社の仕事においても、小グループ分けは効果があります。仕事を2人でやるペアシステムの例があります。ペアシステムは、日本のロケット工学の父と言われる故糸川英夫博士が提唱されていた仕事の仕方です。2人で仕事をすれば、互いに補い、また手抜きもできにくくなります。「3人で仕事をすると、1人は『当事者』でなくなる」と語っておられました。
「手抜き」を避ける自動化や利用する商品開発
「手抜き」を防止するのに、規則や監視を厳しくする方法があります。一時的には、効果を発揮しますが、やがて動機付けが緩んで「手抜き」が生まれます。厳格であればあるほど、巧妙な「抜け道」を見つけるものです。
山のようなチェックリストをつくり、そのチェックが適正にされたかどうかのチェックリストをつくるような羽目になりかねません。また、監視を強くすると、反発も生まれます。
「それをしなければ、大変なことになる」
と誰もが思うような動機付けができることが重要です。当人にとって
「どうでもいいこと」
について、厳格な規則や監視をすることは、弊害を招くだけです。
「手抜き」を完全になくすには、「手抜き」をしたがる人間の動作を排除することです。つまり、自動化です。特に、人は単純な作業、膨大な量の作業は、「手抜き」をしたがります。人を2重、3重に着けて「手抜き」防止を図るような仕事は、自動化することです。
商品開発においては、人の「手抜き」は、商品開発の大きなヒントなります。家電製品の多くは、家事の「手抜き」に貢献する商品です。家庭や職場で、「手抜き」したくなることをリスト化すれば、開発すべきモノやサービスが生まれることが期待できます。
まとめ
一般に手抜きは、「悪いこと」「あってはならないこと」として認識されています。しかし、「手抜き」は起きうることです。また、「手抜き」を活用することもできます。
「手抜き」防止や活用には、以下のヒントがあります。
1)「手抜き」の存在を認めること
2)「社会的手抜き」が発生しにくい人員構成にする
3)「手抜き」を避ける自動化や利用する商品開発をする