意味のない人事考課の改革は、上司との給与を決める真剣勝負の面接から
意味のない人事考課の改革は、上司との給与を決める真剣勝負の面接から
意味のない人事考課の改革は、上司との給与を決める真剣勝負の面接から
「どんなことをシートに書いても、査定ランクに反映されている実感がない」
「希望や意見をどんなに書いても、会社は答えてくれない」
「書く方も、読む方も忙しい中、時間ばかりかかる意味のない人事考課」
人事考課の時期が来るたびに、従業員やその上司には、こんな不満が積もります。
本来、人事考課は、従業員のパフォーマンスを評価し、給料を決めることです。どんな評価をされるかワクワクし、高評価なら給与が上がることを期待してもいいはずです。ところが、人事考課用のシートを前に、どう書くべきか悩み、上司も同様にどう評価を書くか悩むのが実態ではないでしょうか。若い人には、就活のエントリーシートを書いた時の気持ちを思い出させます。
こんな意味のない人事考課をしていて、会社の業績は上がるのでしょうか。労働生産性が上がるのでしょうか。従業員の会社への不満が解消され、モチベーションが上がるのでしょうか。日本企業低迷の原因とさえ思えてきまます。
この記事は、長い間、上司として人事考課を行い社員の査定ランクを付けた経験と、海外の企業で人事考課をした経験に基づく、日本の形骸化して「意味のない人事考課」に対する意見です。ここでは、多くの日本企業の人事考課の実態の米国式との差、改革ポイントを述べ、意味のある人事考課とはどんなものかを探ります。
意味のない人事考課の手順
多くの日本企業では、年に1回もしくは2回の人事考課があります。よくある例では、従業員は、「業務目標シート」などと呼ばれる記入用紙に、前年度の成果と反省を書き、今年度の目標を記入します。(このシートの呼び方は様々あり、内容も異なりますが、以下「業務目標シート」として記事を進めます)このシートには、業務以外に自由意見欄などがあり、転勤の希望や会社への要望などを書く欄を設けている企業が多いようです。その後、シートを前にして上司と面接するというのが、大方の手順です。
その後、上司と関係者が協議して査定ランク(給与)が決められ、一方的に従業員に通知されるのが実態ではないでしょうか。年功序列制度や労働組合のある会社では、大体予想される範囲で、給与は現状維持もしくは微増となります。(ボーナスは、会社業績や本人業績と連動して上下する会社が多くなっています。)
今の日本の人事考課は、上司と部下が査定ランク(給与)の交渉をしている雰囲気は全くありません。まるで、小学校の先生が、生徒の通知表を付ける感覚です。先生が、5段階評価のどのランクかを暗黙のうちに決めて、あと付けで理由を考えているようです。
上司も部下も、今の人事考課が意味のないことであると感じながら、やめることも変えることもできず、続けている会社が多いのではないでしょうか。
人事考課に使われる「目標シート」は、意味がない
「業務目標シート」によくある「年度目標」は、何を書くのでしょうか。営業であれば、売上げでしょうか。技術系では、生産量でしょうか、開発の目標でしょうか。では、総務の人は、何が書けるのでしょうか。
各企業は、「業務目標シート」の記入内容について指針を設けています。各部署の年度目標に対して、各個人の目標をたて、翌年にそれを自己評価し上司の評価と合わせろ。「目標は、定量的に決め、後で評価し易いように」なんて注意がされています。このシートの内容は、各企業が独自に作ったものの他に、人事コンサル会社が提供するものもあります。
業績評価の部分では、年度目標に対して目標の難易度と達成度を掛け合わせてポイントにする方式があります。まるで、フィギュアスケートのポイントのようです。そこまでして、点数を出しても、結局査定ランクは、従業員同期の中で、相対評価ということになるのが落ちです。
そもそも、この手の「業務目標シート」はなんのためにあるのでしょうか。目標を業務の結果とするのか、行動とするのかわかりません。例えば、部署の年度売上目標が2億円として、個人が年2000万円の注文を取るのが結果目標。年200社の新規顧客と連絡をとるのが行動目標です。結果目標は、不確定要素が多く個人ではすべての責任を負いかねます。そんなことを考慮して評価せねばならないのです。
例えば、部署の業務目標を基に個人目標をたて、これを振り返ってみます。徹底的に結果を検討していくと、大抵悪いことの責任は、上司にあることに気づきます。売上げが伸びないことが分かった時に、上司はどんな手を打ったのか。売上げ増に重要な顧客とのコンタクトが不足していることに気付かなかったのか。商品が陳腐化しているのに、売り込みを続けさせたのか等々。そうなると、これは人事考課ではなく、業務検討会(売上増対策会議)みたいなものです。私は、従業員の「業務目標シート」の上司評価欄を読んで、マネージャー(上司)の実力を判断することに使っていました。
人事考課は、従業員の行動に対する評価であるべきですが、これを全社統一しているところは少ないようです。上司が勝手に運用し、人事には人事考課の結果である査定ランクだけ報告。「業務目標シート」は、参考として人事に送る。人事は、従業員が会社にどんな不満を持っているか確認のため、自由意見欄だけを読むといった運用が実態です。
結果目標と行動目標について参考記事:本ブログ「目標設定するときは、...」
大企業の従来型査定ランクの例
年功序列制を行っている大企業の人事の査定ランクの決め方の例を紹介しましょう。縦軸に、査定ランク、横軸に経過年数を取って、モデルラインがあります。このモデルライン上で評価します。縦軸のランクは、5~7ランク程あって、決められたランクに到達すると、次の資格に進めると言うものです。基本1年毎に1ランクずつ上げます、どんなに優秀でも2ランク上がるだけです。懲罰を伴うような失敗や病気で長期欠勤でもしない限り、このモデルライン上の査定ランクです。よく世間で「減点主義査定」なんて言われ批判だれますが、会社の関係者はそんな意識はありません。プラス側でのみ評価しているからです。ただし、ほとんど上への振れがないので、給与の差がありません。
このモデルラインは、何年かすると停滞ラインに突入します。停滞ラインに入る前に、モデルラインより1,2ランク上げておけば、上の資格に進むチャンスが生れます。平社員から課長、課長から次長や部長に昇格できます。可もなく不可もなくモデルライン上を進んでいるだけでは、以後上の資格に進むことはありません。これが、万年平社員、万年課長が生れるしくみです。ある意味、本人を傷つけないないで、万年平社員、万年課長を作る残酷なしくみです。
評価シートの自由意見欄を真剣に見るのは、何か事件があってから?
「業務目標シート」には、自由意見欄が設けられています。転勤の希望とか、会社や職場に関しての意見を書くことができます。上司は、目を通しますが、それによって転勤の計画を変えたりするなど、まずありません。参考程度です。
一番真剣に見るのは、本人が事件を起こした時や、退職希望を出した時です。その時になって、
「そんな不満があったのか」
「そんな思想に染まっていたのか」
などと幹部や人事が、会話をするのが関の山です。後から、「自由意見欄の内容について本人の話をよく聞いてやれば良かった」と後悔するものです。
大抵の自由意見欄には、就活のエントリーシートのような模範解答が書いてあります。
「会社の状況を踏まえ、自分は今年こんな自己研鑽をします。」
「両親が高齢なので、なるべく転勤が無いようにお願いします」
と言ったたぐいです。間違っても
「こんな経営では、会社はつぶれます。経営陣を変えるべきです」
と書いたものは、ありません。たとえ、そんなことが書いてあっても、優しい上司は、人事や経営陣に送る前に、マイルドな言葉に書き換えておいてくれます。
ある部下は、自由意見欄を空欄にして、上司との面接に来ました。散々経営批判をした上で、
「課長、どう書いたら気持ちだけでも伝わりますか」
と切り出してきました。なかなか、世渡り上手と感心はしましたが、「そんな程度の責任感で会社が動かせるか」と反発をしたのを覚えています。
米国での人事考課は、熾烈なサラリー交渉
米国の工場で人事考課をしたことがあります。私は、工場の管理側で、従業員が評価シートを持って面接にきます。10人ほどの技術系マネージャーの面接をしました。
年に1回でしたが、これで彼らのサラリーを決めるので、皆真剣です。
「設備トラブルに見舞われた時、俺は数日で復旧させた。会社にこれほど貢献をした」
手帳に書いたメモを頼りに、上司に迫ってきます。
「ジョン、それは君の働きではなく、運が良かっただけだろう。そもそも、設備がトラブったのも、設備計画が不十分だったのでは。昨年と同じサラリーでどうだ」
彼は、上司の言うことに納得し、提示サラリーに合意しました。ところが、上司の人物評価欄をみて激怒しました。そこには、
“It’s so wonderful that no one else can change it.”
「余人をもって代えがたし」
と日本人の下手な英語で、そんな意味のことが書いてあります。悪い意味ではなく、良く職責を果たしているという意味のつもりでした。ところが、ジョンは、エライ剣幕です。
「こんな評価は、初めてである。これでは、俺の能力が今の仕事程度であると評価されたことになる」
彼は、30人ほどの製造部門のマネージャーです。しかし、向上心は満々です。
「『将来、工場全体のマネジメントする力が有る』と書いて欲しい」
と言います。
「本人は、エリアのマネージャーだが、将来は、工場全体を任せられる可能性がある」
と書き直すと、彼は納得しサインしました。
数年後、ジョンは他社で工場長になりました。転職の採用面接で、この時のコピーを持参してアピールしたとのこと。このくらい真剣であれば、人事考課をする価値があります。
面接を重視して人事考課を意味あるものに変える
人事考課において、面接を重視することをお勧めします。部下と上司とが、真剣に昨年の自分の行動を評価し、その場で査定ランクをきめるのです。両者納得できるまで、会話することが重要です。
残念ながら、今の日本の人事制度では、上司の持つ裁量権は著しく制限されています。年功序列制度の見直しや相対評価の評価範囲の拡大や絶対評価への移行等、人事制度全体を改革する必要があります。
各部署の業務目標に連動した個人の結果目標は、日々の業務の中で見直していくべき事項です。PDCAサイクルを年に一度、人事考課において回すようでは、業績向上を期待することはできません。
スポンサーリンク
まとめ:今の人事考課では、意味がない。真剣勝負の面接で査定ランク(給与)を決めよ。
多くの日本企業が、現在行っている人事考課の方法は、手間ばかりかかって、「意味がない」と断言できます。面接を通して、評価する側(上司)と評価される側(部下)が、真剣に前年度の行動を評価し、翌年の査定ランク(給与)を両社納得のいく形で決めることです。これができれば、部下にも上司にも、行動の変化が生れ、モチベーションのアップが期待できます。ただし、年功序列制度や労働時間、賃金配分等様々な人事制度全体の改革を行わなければ、本当の意味の人事考課の有効化は、難しいと言えます。