生産性の向上に役立つ「測定できないものは計測できない」という「MORSの法則」
生産性の向上に役立つ「MORSの法則」の活用方法
生産性の向上に役立つ「MORSの法則」とは?
「慢性的な人手不足」
「長時間労働が解消しない」
「働いても収入が増えない」
これらの大きな理由が「生産性の悪さ」です。「生産性が悪い」とは、一人当たりの売上、利益が低いことを意味し、結果として給与も低く抑えられてしまいます。諸悪の根源ともいえる「生産性の悪さ」ですが、これを向上できずにいる会社や職場が、日本中に溢れています。そもそも「生産性の悪さ」を感じていながら、その向上策を積極手に実施していない職場が多いことも事実です。
ところで、生産性は、以下のように定義できます。
生産性=アウトプット(成果)/投入資源
アウトプットとは、製品の生産個数など仕事量で表します。金銭で表すなら、付加価値を使うこともできます。
投入資源としては、時間や投資金額、使ったエネルギ―などがあります。労働生産性に限れば、投入した労働時間です。
労働生産性を上げるには、1)アウトプットを増やす、2)投入する労働時間を減らす、3)両方をするかです。
(生産性に関する詳しい定義は、参考記事をご覧ください。参考記事:労働生産性を上げる4つの要素と労働生産性の3つの表現方法)
生産性を評価するためには、アウトプットや投入した労働時間を知る必要があります。モノづくりの現場では、アウトプットである生産量や生産額、投入労働時間を比較的容易に把握できます。しかし、事務部門などの間接部門では、アウトプットも投入労働時間も曖昧で、把握することが出来にくいものです。
「能率を上げて、残業をなくそう!」
「ムダをなくして、生産性をあげよう!」
などと、事務職の社員にリーダーが発破をかけても、気合だけで終わりです。
生産性向上活動がうまく行かない大きな原因は、アウトプット量の把握、投入労働時間の把握が、うまくできていないことにあります。これは、長く職場の労働生産性向上に関わり、強く感じてきたことです。
これまで、生産性向上活動として職場毎に「アウトプットとは何か」を「具体的に」決め、丁寧に作業時間を測定することで、労働生産性を把握し、その向上を実現してきました。この「具体的に」が、行動科学において「MORSの法則」としてまとめられています。
「MORSの法則」とは、
1)Measured: 計測可能であること(定量的)
2)Observable:観察可能であること(客観的)
3)Reliable:信頼できること(信頼性)
4)Specify:明確化されている、
の頭文字をとったものです。大雑把にいえば、
「測定できないものは、改善できない」
「何をしたか明確でなければ、結果を評価できない」
といったことを、「MORSの法則」は教えてくれています。
以下、「MORSの法則」を生産性向上に適用した例をご紹介します。
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Measured: 計測可能であること(定量性)
生産性向上を目指しながら、自社、自職場、個人の生産性を把握することは、意外に難しいものです。日本の生産性と称してGDPを人口で割る、自社の生産性として全社売上を従業員数で割ることも、生産性の出し方としては間違ってはいませんが、大雑把過ぎて生産性の改善行動には繋がりにくいものです。
生産性を測定するには、仕事の成果を「定量的」に把握することが必要です。直接製品を作っていたり、販売していたりする仕事では、その数量や売上金額をアウトプットとしてカウントできます。間接部門であれば、直接アウトプットを計測することが難しく、職場毎に定義していくことが必要です。
ある会社の総務室では、作業ごとに標準作業時間を決めていました。この標準時間に対して、実際の投入作業時間と比較して、生産性を出していました。例えば、伝票処理10件で標準作業時間を60分とし、実際は45分で終わったとすると、生産性は60/45=133%です。
Observable:観察可能であること(客観性)
生産管理の分野では、「見える化」を重視します。誰もが職場の状況を容易に把握できるように「見える化」する工夫がなされています。例えば、部品ごとの在庫が見えるようにして、ボトルネックを防止するなどです。結果のみならず、経過が観察可能であること、しかも誰もがそれができることが、「客観性」です。
生産性向上に適用すると、生産性の目標を掲げ、それを職場全員が「見える化」することです。生産性の各指標を定期的に開示することも必要です。
私が指導したある職場の例です。その職場では、屋外で環境分析のサンプリングをしていました。車で現場に行き、煙突から排気ガスのサンプルを採取する仕事です。遠い場所へ行くときも、近場のときもあります。生産性を見るために、毎日の仕事時間を移動時間とサンプル採取時間とに分けて記録し開示することにしました。採取時間には、現地でポンプや配管などのセッティングの時間も含みます。(=現地到着から離れるまでの時間)これを毎回開示していると、不思議なことにドンドン採取時間が短くなっていきました。リーダーから、「生産性を上げるための指示」は何もしていません。ところが、各作業者は、作業時間の表やグラフを見ると「少しでも時間短縮をしよう」と考えはじめました。機材の車への積み方、セッティングの手順など、各社員がそれぞれ勝手に工夫を始めたのです。「体重を毎日記録するだけでダイエットに成功!」といった健康記事を目にしたことがありますが、まさに「見える化」で生産性を向上させた例です。
Reliable:信頼できること(信頼性)
具体的に示された目標、結果であっても、その数字に疑いがあると、人は努力する気にはならいものです。
「目標は、所詮理想の姿。実現はムリムリ」
「生産性の計算の仕方が納得できない」
そんな声が聞こえてくるようでは、結果を出すことは難しいでしょう。目標にしろ、途中経過にしろ、皆が納得できなければ、意味を成しません。生産性を測定しようとすると、各個人がどの仕事にどれだけ時間を使ったかを把握する必要があります。投入時間は、基本的に自己申告に頼るしかありません。すると、「時間記録が、不正確」という問題が生まれ、データの信頼性が揺らぐことになります。時間記録を始める前に、どの程度の精度で記録するかを皆が納得する形で決めておくことが大切です。自動化された工場では、秒単位の精度が必要でしょう。一方、事務処理などの職場では、15分単位でも十分です。研究所では、30分単位の時間記録でも問題ありませんでした。
時には第3者から見てもらい、信頼度を上げることも必要です。お客様相手の仕事で、仕事が速くなった(生産性が上がった)ことに対して、サービスの手抜きが起きていないか疑いの声がでたことがあります。そこで、お客様にアンケートを取ってみると、こちらの仕事に対してのお客様満足度は変わらず、むしろ速くなったことに感謝されていました。
Specify:明確化されている
「明確化」とは、具体的に「誰が、何をするか」です。生産性の目標や計画が、文字として明確にし、改善策が行動として明確になることが重要です。
生産性向上活動は、生産性に関する測定項目を決め、それが作業改善によりどう変化するかを確認することで、前進します。いろいろな改善策を試しては、効果を測定するサイクルをまわしていきます。この際、作業改善として、「具体的に何をするのか」、「何をしたのか」が明確になっていなければ、改善が堂々巡りする可能性があります。たとえ、何かをして生産性が上がったとして、それが「どんな行動」によるものか明確でなければ、「仕組み」として職場に定着しません。一過性の生産性向上に終わる可能性があります。
先ほど例を挙げた「記録するだけで、生産性が上がった」職場は、その後各人が「何をしたか」をリーダーがヒヤリングをしました。そして、その内容を「作業標準」として明確化し、高い生産性を維持しています。
まとめ
労働生産性を上げるには、生産性を測定し、改善し、結果を確認することが必要です。その際、「具体的に」にすることが肝要で、行動科学の「MORSの法則」を活用できます。「MORSの法則」とは、
1)Measured: 計測可能であること(定量的)
2)Observable:観察可能であること(客観的)
3)Reliable:信頼できること(信頼性)
4)Specify:明確化されている。
「測定できないものは、改善できない」
「何をしたか明確でなければ、結果を評価できない」
ということです。